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  • 執筆者の写真Yasuyuki Saegusa

追悼 Mixed Media Art Communications 星野 珙

福島大学名誉教授の星野 珙二 先生が2024年3月10日にご逝去




進化のための深化 ―MMACの歩み―

MMAC (Mixed Media Art Communication)という名前の由来は、これからフランスのアティスト・グループと交流を開始しようと折衝している中で、彼等が私たち日本人アーティスト・グループの活動に興味を覚え、その特徴を「ミックスト・メディア・アートのグループ」いう言葉で記述してきたことに端を発している。バフオーマンス・アート、ダンス、美術、音楽、映像などジャンルを横断して活動するグループは、海外でも数少ないのである。4文字目にコミュニケーションという言葉を付け加えたのは、私たちのメンバーの中にこれからは、「同時代アートを通じた国際コミュニケーションが大切だ」と考える人が多かったからだと記憶している。その意昧では、私たちがやってきたこと、あるいはやろうとしていたことに対して、たまたま外側から見た適当な表現が与えられ、それに乗って成立したもので、基本的名付け親はフランス人アーティストであることを公言しておこう。

今思えば、国際交流の予算やノウハウもないまま、いきなり12名のフランス人アーティストを招聘してしまったのは暴挙に近いことだったのかもしれない。早いものでそれから10年の歳月が過ぎようとしている。1983年から1984年に掛けてフランスのアーティストグループと連絡を始めた頃の手段は、手紙であり、FAXであった。今日のような、Eメールにいろいろなメディアを添付してのやり取りなどができるようになろうとは当時は想像もできなかった。電了メディアのこの10年の進歩は実に目覚ましいものであった。それに対して、私たちのミックスト・メディアのアート活動は遅遅としていたといえるであろう。あるいは、どこかで遅々とした歩みをよしとしていたのかもしれない。

MMACでは2つの鍵概念を重視してきた。 一つは、「異ジャンル間のコラボレーション」である。10年前の当時、それが一つの流行の走りとして、また心地よい響きとしてコラボレーションという言葉が表層的に受け入れられていたこともあって、私たち自身が深く掘り下げて考えていなかったところがあったことを告白しておかなければならない。初めはいろいろ新鮮でそれ自身刺激的であったりするが、継続してみるとコラボレーションが意外に難問であることが分かってきたのである。私たちの活動経過の中で、単なるコラボレーションのためのコラボレーションは批判を浴びるようになり、むしろ個別のメディアへのこだわりやコラボレーションの必然性というような方向へ議論を深めていくことになってきている。このことが遅遅としてという形容表現に関わっている。どこかへ進むというよりは、自らの立っている場所を掘り下げたり、再確認するという作業が余儀なくされている。

もう一つは、「パフォーマンス」概念を重視してきたことである。これは、MMACが会津地域で継続的に行われてきたパフォーマンス・フェスティバル(こちらは20回目を迎えるえる)に協力してきたこともあって、理念を共有化してきたからである。ここでの「バフォマンス」概念は、狭い意昧でのジャンルとしてのパフォーマンス・アートそのものではなく、むしろ新しい表現の地平を切り拓こうとする考え方の枠組み、すなわちパラダイムに関連している。たとえば、かつてアラン・カプロ−の〈ハプニング〉という概念やフルクサスの〈イベント〉という概念がジャンルを横断して刺激的な意味を持ち得たように、〈パフォーマンス〉についても、ジャンルを横断するような刺激的な考え方の枠組みが認められる。たとえば、フィクショナルなものとリアルなものを意識しながら双方への距離を意図的にとっていくという考え方などもその中心的なものの一つとして指摘できよう。〈ハプニング〉はリアルなものを突然フィクショナルな空間に差し挟もうとし、〈イベント〉は逆にフィクショナルなものもリアルな世界に組み込んでしまおうとしたが、〈パフォーマンス〉はそうした考えや実践を踏まえて、より成熟した視点に立った戦略性をもちえているのではないかと考えている。そうした考え方に関連して、生活者としての身体と表現者としての身体の重なりという捉え方、すべてをコントロール下において表現するのではなく環境や自然に開かれた表現のあり方、というようなことが課題にされてきたのではないかと考える。MMACでも、これらの課題は意識されていたが、MMAC全体としてどこかへ向かって歩みだしたということではなく、コラボレーションの問題と同じように、遅遅として進まずとも個別に表現者のレベルでは深化されるものがあったのではないかと思っている。進化するためには深化が必要なのだろう。

MMACはフランスのアーティスト・グループとの交流を契機に、アート・フェスティバル間の国際ネットワク組織PAN (Performance/Performing Art Network)の設立メンバーとして参画し、国際交流を展開してきた。国際交流を通して、コラボレーションに対する取り組みや「パフォーマンス」概念の相違などが明らかになってきた面があり、私たちの活動を相対的にまた客観的に見ることもできるようになった。私たちは、アイデンティティやオリジナリティを一層意識させられるようになったことに加え、国際的な普遍性ということにも思考が及ぶようになってきた。このことは素直に収穫であったと思う。現在のところ正規のPANパートナーはC.R.AN.E.(フランス)、AAA(カナダ)、INNERSPACES(ポーランド)、CROSSING TIME(イギリス)であるが、さらに他国のアーティスト・グループとの折衝が進んでいる。

最後になりましたがMMACの10年間の歩みをまとめるにあたり、活動を支えてくれたアーティスト、スタッフ、関係者およびPANパートナーに心から感謝いたします。ここでのまとめが単に活動の記録を収めるということに留まらず、次へつなぐ節となることを期待して筆を置きます。

2 0 0 3年5月2日 MMAC代表 星野 共




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